あわよくば

腐女子でオタクのアニメ語りと日常

ネタメモ15

真幸

 ずっと籠の中の鳥だった。抗うことを許されず。命を絶つことも許されず。

 だから籠の外が恐かった。まるで井の中の蛙で。赤子の如くなにも知らなかった。

 今でも恐いのだ。世界が。自分が。そして、君が。

 幸村精市――。立海大一年生。好青年の一言に尽きる。

 真田弦一郎は、パソコンに表示された幸村のデータを眺めていた。

 これが、本当に殺し屋なのか。真田は、内心驚いていた。優男のような顔をしている。それでも、間違いない。彼は殺し屋だ。

 真田は、データを消去すると、部屋から出た。

 この世界には、殺し屋と言う存在がいる。表にも出なくても、確かに存在する。現に、真田と幸村と言う、殺し屋の家がいる。両家は対立していた。

 真田家の御曹司――真田弦一郎は、立海大に入る。入学ではなく、侵入と言う名の偵察だ。立海大に所属している幸村家の御曹司――幸村精市に会うためだ。

 家で作った偽造カードで大学に入る。悠々と歩く。こそこそ歩けば、不審だ。

 幸村精市の容姿はきっちり記憶している。大学が広いと言えども、会えるだろう。どこにいるか人に訊く方法もあるが、なるべく偶然を装いたい。

 歩いていると、幸運なことに、幸村精市が見えた。確かに、傍から見たら、好青年のなにものでもない。でも、真田は知っている。幸村が――残忍な殺し屋と言うことに。

 すれ違い様、そっと呟く。幸村の方も、真田の容姿について知っているだろう。

 ただ、一言言った。それは、殺し屋ならば誰もが知っている言葉。故に、真田は知らしめた。同類者だと――。

 幸村は振り返ると、背中を見せる真田を睨み付けた。

 同類者――殺し屋。

 対立――真田弦一郎。

 幸村はうっそり笑うと、歩きだした。

 お前の余興に付き合ってやるぞ――と。