ネタメモ32
尊と出雲
――ああ、救えなかった。
出雲は、アンナの叫び声を聞きながら、ただぼんやりとそう思った。
彼は――周防尊は、最高の王だ。
だからこそ、遣る瀬なかった。悔しかった。友人として、なにも出来なかった。無念だ。
出雲は尊を一人の友人として見ていた。又、絶対的な王としても尊敬していた。
そんな尊が変わったのは、多々良が殺害されてからだ。尊に電話したとき、「……そうか」と呟いていたが、出雲は知っている。尊がどんなに怒りをこらえているか。そして、どんなに悲しんでいるか。
多々良は尊を理解して、「キング」と仰いだ。多々良がいるとき、尊は冗談に笑っていた。多々良は尊を笑わせるのが上手かった。
そんな多々良が、無色の王によって命を絶たれた。吠舞羅の初期メンバーであった多々良の死は、吠舞羅を動揺させた。
復讐で沸き立つ吠舞羅を尊は止めなかった。最弱の王権者――無色の王を殺すために。