ネタメモ34
ギル時
吸血鬼パロ
謎の殺人事件が起こった。被害者は、皆血を抜き取られていた。警察は慎重に捜査して、近隣住民はすわ吸血鬼かと噂した。
時臣は、近隣住民の噂を軽く聞いた。普通なら、一笑に付すだろう。時臣も、聞き流した。有り得ない、と。
遠坂時臣――外国の血が流れている紳士。と、近隣住民はそう評価するだろう。だけど、彼は違った。少なくとも、紳士ではなかった。
日が落ちると、時臣の館に来客が来た。はて誰だろう、と時臣は少し警戒しながら戸を開けた。
目の前には、金髪に紅い目をした美丈夫がいた。暗闇の中、時臣は彼――ギルガメッシュに跪いた。
「突然のご来訪、いたく驚いております……王よ」
「人間達を混乱させているのは貴様か、時臣」
ギルガメッシュは館へぞんざいに入ると、文句を言った。
「恐れ入ります……他の食物がなかった故。それに、少々人間を困らせたかったのです。勿論、貴方様も」
ギルガメッシュは呵呵大笑すると、革張りのソファーに時臣を押し倒した。
「矢張り貴様は我の寵愛に値する。喜べ、時臣。元老は同胞の血を飲むのは禁忌だと言うが――我は時臣の生き血を飲み、生きる」
「光栄にございます、私の王よ」
ギルガメッシュは、時臣の美しい首筋に牙を当てた。時臣の顔が染まり、二人はそのまま同衾した。
この世には、既に人ではない存在がいた。妖怪や鬼と呼ばれるそれに、吸血鬼――も属していた。
吸血鬼。時臣とギルガメッシュが、まさにそれだった。
時臣が「王」と呼ぶギルガメッシュは、吸血鬼の頂点に立つ一族の一人だった。尚も「元老」が吸血鬼の世界を牛耳っていたが、ギルガメッシュは元老の力にあまり左右されなかった。
時臣は、吸血鬼でもわりといい一家の出だった。それに加えて、吸血鬼の王であるギルガメッシュに寵愛されている。それが時臣を更に高めた。
二人は恋人ではなく、ただの友人でもなかった。勿論、セフレでもない。表現するのは難しいが、二人は寄り添っていた。吸血鬼同士の恋人は珍しくない。寧ろ、人間と恋人になるよりもよいとされる。
だけど、禁忌は確かにあった。吸血鬼が吸血鬼の血を飲む――それは決してしてならない、と言われている。だが、ギルガメッシュは良くも悪くも異端児だった。そんな迷信は要らない、と時臣と通じ合うとすぐさま血を飲んだ。
元老が言うように、発狂などしなかった。つまり、元老の世迷い言だったのだ。ギルガメッシュは更に元老を侮蔑した。
性交――飲血と性交は密接に繋がっている――を終えた時臣は、新しい服を着た。普通の人間より頑丈なので、性交ではすぐに気を失わない。
ギルガメッシュは、多忙だ。まだ上の階級の時臣と会うのにそんなに制約はないが、「王」たる彼の人望は厚い。
それに、吸血鬼狩り――所謂バンパイアハンター――の危険もある。ギルガメッシュの棲家は吸血鬼の力でハンターから遠ざけているが、時臣は人間と共に住んでいる。人間と共に住むことは、ハンターが潜んでいる危険もある。特に、今は事件のこともある。
「時臣、貴様は死に急いでいるのか?」
吸血鬼が死ぬことは殆どない。しかし、ハンターのシルバー・ブレットが原因で死ぬ吸血鬼は多い。吸血鬼は天国にも地獄にも行けず、ただあの世で彷徨っているだけとされる。
「死に急いでいる……とは違いますけど、私はきっと、変化を望んでいるのです」
「変化……?」
「貴方との仲にも名前がなく、元老の言うことは絶対。飽き飽きしているのです。あわよくば、ハンターに変えてもらいたいと思っているかもしれません」
「改革を望むのか、敵に」
「自分でも可笑しいと思っています。私は……、吸血鬼でいることが嫌なのでしょう」
「そんなこと言うな」
ギルガメッシュは、時臣を抱き締めた。
「我は、時臣に会えて嬉しい。よかった。よもや我と会えたことも嫌だと申すのか……?」
「いいえ、私は貴方とだけ一緒にいたい。誰にも邪魔されない世界を築きたい」
きっと、無理だろうけど……と時臣は諦め顔になった。
逃亡も逃走も許されず、ただ封建的な吸血鬼の世界。そこに閉じ込められることが、時臣は嫌だった。だが、元老には何人たりとも逆らえない。
ハンターが来ればいいのに――と時臣は汚れた世界の壊し役を名も知らぬハンターに託した。